編集長　伊集院光の一言
ジャイアント馬場さんが亡くなられてからもうどれくらいが経つのだろうか、もう随分になるような、つい最近のような、、、
いまだにテレビ番組でその姿を見たり、すごく大きい人の例えに使われたりするのでうまくつかめない。
昔、ビールの年間生産高など途方もない量を例えるのに言った「霞ヶ関ビル何杯分」と言う言葉はすぐに廃れてしまった
（今は『東京ドーム何杯分』が主流）が「そいつのでかさと来たら『ジャイアント馬場』かと思った」は現役だ。
それも月日が経つうちに「生馬場を知らない子供たち」の台頭とともに消えていくのだろうか。寂しい話だ。
「『川合俊一』かと思った」ではあらわせない『大きさ』がそこにあるというのに。
光栄なことに僕は「生ジャイアント世代」の中でも、身近にジャイアント馬場氏を感じることができた一人だ。
さほどプロレスファンでもない僕だが、師匠三遊亭楽太郎が氏と深い親交があり、
やれ麻雀だゴルフだと二人が集う現場に師匠のかばん持ちとして同席させてもらうことがしばしばあったからだ。

初めてお会いしたときのこと。あれは師匠のお使いで全日本プロレスのオフィスまで伺ったときだったか、、、
緊張する僕を見るなり「、、、足、、、でかいな、、、。」と馬場さん。
確かに僕の靴のサイズは３１センチと巨大だが天下の「１６文キック」からそう言われるとは思わなかった。
「、、、何センチある？」「３１センチです！」「、、、靴。たいへんだろ。」いう会話の後おもむろに受話器をとり、どこかへと電話をかける馬場さん。
「もしもし。馬場だけど、一足お願いしたいんだ。黒の革靴、３１センチ。デザインは任せる。なるべく丈夫なのを
（普通に句読点を打つと馬場さんらしくないな。でもあまりに打つと読みにくいので省略）」
電話を切り「僕も若い頃スパイクで苦労したんだよ」と言って笑う馬場さん。
初対面の僕に行きつけの店であつらえた革靴をプレゼントしてくれるというのだ。
突然の出来事しかも「プロ野球選手時代のエピソード付」に感激するやら恐縮するやら驚いている伊集院光、
いや、当時１７歳の駄デブに走り書きの地図を渡し「ひと月後には出来上がるから、取りに行きなさい」と笑う大巨人。

「ありがとうございます」と頭を下げてオフィスを出てすぐさま師匠に報告。
改めて地図を見ると、いたってシンプルな線と「空港」とかかれた目印があるだけ。
「はてここはどこだろう？」目的の靴屋さんの名前と電話番号もちょいとおかしい。
そこはハワイの靴屋で目印はホノルル空港だったと言う。
かばん持ちの、まして「靴を買うのにも苦労する身分」には革靴以上にハワイは遠い。
世界の馬場にとっては「すぐそこの行きつけの靴屋さん」なのだろうが、おいそれと行けるはずもない。
結局師匠が海外旅行に行ったついでにとってきてくれたという。
「ジャイアント馬場が金を出し、三遊亭楽太郎が取りに行った靴」はまぶしすぎて新品のまま今も実家の倉庫に眠っている。
文字数的にはもう十分行ったのだが、ここまでは余談だ。
僕が故ジャイアント馬場氏にまつわる話で好きなのは、そのスケールのでかさから来る根も葉もない伝説の数々だ。
いや「伝説」を通り越した単なる「ホラ話」が大好きだ。「ホラ話」ではあんまりなので「馬場噺」とでも言うべきか。

「この前ジャイアント馬場が自動車運転してるのを見たんだけど、サンルーフから顔が全部出ててさ、トンネルに入る時は首を斜めに折ってたよ」てなあれだ。
「そんなわきゃない（コージー冨田風に）」のだが、話の最後に「ホントだって」がつくとなおよい。
またこの「馬場噺」の中のジャイアント馬場氏はどんどんスケールアップしていく。
「実馬場比」とでも言おうか「話の中のジャイアント馬場の大きさ÷本当のジャイアント馬場氏大きさ（身長２メートル強）」がまるでイリュージョンがごとく巨大化していくのだ。
おそらくサンルーフの話で「実馬場比１．５」、「ジャイアント馬場さんと一緒にマージャンをしてたら、あまりのイーピン欲しさに対面のテッペンハゲのおじさんの頭をつもった」で「１．８」、
「ジャイアント馬場さんはあまりの大きさに飛行機に乗るとき両方の翼に両腕を通してうつぶせに寝ている」が「２０」。

僕の中で一番ころあいのいい大きさは「ジャイアンツのピッチャーだった時代の馬場が、九回裏ツーアウト満塁の大ピンチに登板したときのこと
『絶対抑えてやる』と大きく振りかぶったら、セカンドランナーを投げてしまった」の「１５」が大好きだ。
故人や熱心なプロレスファンがどう思うかはわからないが、これらは「川合俊一」や「和田アキ子」や「ムルアカ氏」では駄目なのだ。
「ジャイアント馬場」の持つ宇宙的スケールのみがなせる技だと思うのだが。
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